震災7年、福島原発「凍土壁」効果に疑問符 宙に浮く処理水対策

[大熊町(福島県) 8日 ロイター] – 福島第1原発の汚染水対策の「切り札」として、345億円の国費を投じて作られた凍土壁。東京電力<9501.T>のデータによれば、当初の高い期待感とは裏腹に、想定していたほどの効果は得られていない。

汚染水から放射性物質を取り除いた「処理水」の扱いも決まらず、不透明な部分が残されたまま、今月11日に東日本大震災の発生から丸7年を迎える。

凍土壁は、建屋の周囲に約1500本の凍結管を差し込んでマイナス30度の冷却液を流し、土壌を凍らせて壁を作る。全長は1.5キロ、壁の深さは30メートル。流れてくる地下水をせき止め、汚染水の増加を抑制する目的で設置された。

凍土壁の計画が打ち出されたのは、2013年のことだ。同年11月、東電と鹿島<1812.T>がまとめた設計方針によると、凍土壁によって「外部からの地下水流入がほとんどなくなる」とされた。

だが、東電のデータに基づいてロイターが分析したところ、昨年8月に凍土壁が完全凍結して以降も、1日平均141トンの水が流れ込んでいる。これは、それ以前の9カ月の平均値である1日132トンを上回る数値だ。凍土壁は、壁というより、金属のポールを組み合わせた「フェンス」に近いと言える。

国内外の専門家で構成する東電の第三者委員会の委員長であるデール・クライン氏(米原子力規制委員会元委員長)は「凍土壁が過大評価されていた側面がある」と指摘。「福島の現場は水文学(すいもんがく)的に極めて複雑で、特に降水量の多い期間は、実際の水の流れを予測することは難しい」と話す。

クライン氏が言及した水文学(hydrology)は、地上に降った雨や雪などが、地中に浸み込んだり河川に流れたりながら海に集まり、蒸発して大気に戻るまでを地球規模で捉える地球物理学の一部門。地中における水の流れは、把握や予測が難しいとされている。

<台風>

地下水の流入量は、雨に左右されることが多い。東電のデータによると、雨が少ない1月は1日平均83トン。しかし、昨年10月20日─26日の期間では、台風の影響があり、同866トンもの地下水が流れ込む結果となった。

東電は、凍土壁も含めた複数の対策の結果、15年12月からの3カ月間と17年12月からの同期間を比較した場合、1日約490トンだった汚染水発生量が約110トンまで減少したと発表。凍土壁による汚染水発生量の抑制効果は、1日約95トンと結論付けた。

「非常に有効に機能していると評価している」──。増田尚宏・福島第1廃炉推進カンパニー最高責任者は、こう指摘する。凍土壁が完成したことで「水位を管理できるシステムが構築できた」との見方を示した。

<保管場所>

一方、汚染水から専用装置で放射性物質を除去した「処理水」の保管場所が、21年初めまでになくなる可能性が浮上している。周囲の土地を東電が買って保管場所を確保する動きもなく、有効な手だてがないままの状態が続く。

汚染水の浄化プロセスでは62種類の放射性物質を除去するが、トリチウム(三重水素)が残る。少量では人体に有害な影響を及ぼさないとされ、世界中の原発で、トリチウムは海洋や河川に排出されている。

だが、特に地元の漁業関係者からは反対の声が上がる。消費者から福島産の海産物を遠ざけてしまいかねないとの危惧があるためだ。福島県漁連の澤田忠明氏はこう話す。「風評被害が一番大きい問題。業界としては海洋放出に反対しているが、われわれが決めることではない」

経済産業省の「トリチウム水タスクフォース」は、16年6月に報告書を公表した。処理水の扱いについて、海洋放出を含めた5つの選択肢を示しているが、政府がいつ方針を決めるかは不透明だ。

米ウッズホール海洋研究所の専門家、ケン・ビュセラー氏は、国民の不安に対処するためにも、東電は処理水を保管するタンクを外部組織に検査させるべきとの見方を示す。「国民から見れば(処理水が安全だという)第三者による裏付けが欲しいはずだ。凍土壁を作るより、はるかに簡単で安価な方法だろう」と述べている。

(フォスター・マルコム アーロン・シェルドリック 翻訳編集:梅川崇)

 
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