アングル:袋小路の日韓関係、徴用工判決が新たな火種に

[東京/ソウル 31日 ロイター] – 韓国最高裁が元徴用工に対する賠償を日本企業に命じたことで、強硬化する世論や歴史観の違いに直面している日韓両政府は、事態が両国関係の危機に発展しないよう慎重に対応する構えだ。

韓国最高裁は30日、植民地時代に「徴用工として日本で強制的に働かされた」と主張する韓国人4人が新日鉄住金<5401.T>に損害賠償を求めた訴訟で、同社に賠償を命じる判決を下した。

日本政府は「あり得ない判断」だと反発する一方で、北朝鮮問題における日韓協力に影響が出ないよう期待を表明した。

韓国外務省によると、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相と河野太郎外相は31日に行われた電話会談で、「未来志向の両国関係の発展」に向けた協力を継続する重要性を確認した。

日韓両国は、北朝鮮による核・ミサイル開発を抑制するために協力する必要があるほか、緊密な経済関係にある。韓国の統計によると、日本企業は昨年、韓国に18億4000万ドル(約2080億円)を投資しており、韓国にとって第2位の海外投資国となっている。

だが両国の関係は、日本による朝鮮半島の植民地支配(1910─45年)や戦争、そして従軍慰安婦の問題で、長年揺れてきた。

「両国ともに、歩み寄る気持ちが不足している」と、テンプル大学日本校アジア研究学科ディレクターのジェフリー・キングストン教授は指摘する。「基本的に、政治的な立場を超えて、韓国人は過去の傷に対する日本の対応が不適切だと感じている」

「日本は、法的に解決済みだと考えており、(他の企業に対する)請求のパンドラの箱を開くことになるため、柔軟性を示すことには消極的だ」と、キングストン氏は分析する。

三菱重工業<7011.T>や三井金属鉱業<5706.T>などを相手取った似たような訴訟が14件起こされており、うち2件は、原告が752人に上る集団訴訟だ。

韓国側は、戦時中の強制労働被害者は15万人近くに上ると主張しており、そのうち約5000人が存命だが、徴用工の遺族も訴訟の原告になることが可能だ。

日本側は国際裁判も視野に入れていると述べているが、河野外相は文在寅(ムン・ジェイン)政権の出方を待つ考えを記者団に示した。

「われわれは、次の行動を模索し始めたところだ。首相の下に、民間専門家も含めたタスクフォースが設置される」と韓国政府の当局者はロイターに語り、「非常に難しいが、影響を最小にとどめるような賢明な対応を考えなければならない」と付け加えた。

<選択肢>

日本側は、賠償問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場だ。

韓国の歴代政権はこの見方に同意してきたが、最高裁は今回、同協定でも、元徴用工個人が賠償請求する権利は消滅していないとの判断を示した。文政権は、最高裁の判断を尊重するとしている。

日本の一部専門家は、韓国が元徴用工に補償を提供するための基金を設置し、両国の民間企業が資金を拠出する案が選択肢として考えられると指摘する。

独裁体制を敷いた当時の朴正煕元(パク・チョンヒ)大統領の下で結ばれた1965年協定により、韓国企業は日本の援助金の恩恵を受けた。だが個人に補償が渡ることは少なく、元徴用工らは1990年代に声を上げ始めた。

ドイツでは2000年に、ナチス・ドイツ時代の被害者に補償を行う基金を、同国政府と企業が設置しており、それを参考にできるとの指摘もある。だが日本企業に参加する意思があるかは不透明だ。

韓国当局者は、懐疑的な見方を示している。最高裁判決には法的拘束力があり、外交的な調整余地は限定的だと見られている。一方で、両国ともに大衆の怒りを買うリスクを抱えている。

「日本との間で歴史的に受け継がれた問題は、すべて非常に政治的で、反日感情を再燃させる可能性がある」と、韓国大統領府で外交安保首席秘書官を務めた千英宇(チョン・ヨンウ)氏は言う。「政府や、数十年前に日本の支援金を受け取った企業にどのような責任があるかについても、議論が高まるだろう」

安倍晋三首相の保守的な政策に反映される日本の右傾化も、解決の妨げになる可能性がある。

「不幸なことに、日本の現政権は、戦後はすでに終結し、好ましくない過去を再び持ち出すことは国の権威を傷つけると考える人々によって運営されている」と、城西国際大学の招聘教授で、歴史和解の問題に詳しいアンドリュー・ホルバート氏は言う。

「彼らの支持基盤は、この点について非常に明快だ」と、同氏は付け加えた。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

 
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