中国での法廷戦争:弁護士が法廷の外に放り出される

中国の人権派弁護士は、疑いなく最も危険な職業の一つです。その答弁が気に入られなければ、弁護士自身が刑事責任を問われる可能性があるからです。NTDは、中国から逃れてきたばかりの弁護士にインタビューしました。中国の司法制度の実態について語ります。報道をご覧下さい。

中国の法廷で撮影されたビデオは、国内の司法制度の腐敗を映し出しています。このビデオは2019年5月に、裁判所によって初めてネット上に投稿されました。ビデオでは、被告側弁護士が主張を述べようと試みますが、裁判官によって何度も遮られます。

弁護士: 裁判官、弁論を最後まで言わせてください…
裁判官: 彼をつまみ出せ!

〈字幕版〉

そして、最終的には法廷から追い出されました。

このビデオは被告側の弁護士を誹謗中傷するために投稿されたものですが、かえって人民法院(裁判所)に対する強い批判を引き起こしました。そのため、当局はわずか1日でビデオを削除せざるを得なくなりました。

このビデオに映っている弁護士は 呉紹平(ご・しょうへい)さんです。彼は中国で最も「敏感」な法律事件を担当したことで知られており、反体制派、当局を訴えようとする人、弾圧を受けている宗教団体等を弁護してきました。

呉紹平さんは、中共政権から厄介者扱いされていると言います。

上海の人権派弁護士/ 呉紹平
「私は、頻繁に彼らに呼び出されるが、『お茶を飲む』と言う」

中国本土では、当局からお茶に誘われても、烏龍茶が出てくると期待してはいけません。この言葉は実際には、警察による尋問が待っていることを意味します。

上海の人権派弁護士/ 呉紹平
「司法部から電話があり『お前の事件を監視している。だから、面倒なことはするな』と言われた」

呉さんによると、当局は問題となった訴訟について口封じをしようとしており、世間の注目を集めたり、裁判所の判決に異議を唱えたりしないよう弁護士を脅迫するのだと語ります。

中国憲法(中華人民共和国人民法院組織法)には、「人民法院は、法律に従って独立して司法権を行使する」と書かれています。 しかし、その裏で、中共の中央政法委員会が攻撃を指示していると呉さんは説明します。

上海の人権派弁護士/ 呉紹平
「党はこの訴訟を、どのように指示しているか?どのように見ているか? つまり、事件をどのように特徴づけ、犯罪者はどのように宣告されるのかなど。適正な手順など踏んではいない」

中国では、呉さんのような人権派弁護士は、時に弁護人から被告人へと立場が変わります。これは「法廷の戦い」と呼ばれています。法を実践し解釈する人々に対して、司法制度を利用することを意味するのです。一つの実例として、2015年に、全国で200人以上の人権弁護士が逮捕されました。

数年後の2019年12月26日には、南部の廈門(アモイ)で、弁護士や市民数十人が夕食会に集まった後に、多くの人が逮捕されました(1226逮捕事件)。

呉さんも、この夕食会の参加者の一人ですが、運良く、昨年中国から脱出することができました。多くの人はまだ刑務所に入れられており、中には、拷問に遭っている人もいるといいます。では、なぜ中国当局はこれらの弁護士を黙らせようと必死になっているのでしょうか?

海の人権派弁護士/ 呉紹平
「私たちは、中国の現行制度の下で既存のルールに従って人々の権利を守ろうとしているだけだ。しかし、それだけでも政府から見ると、政府に挑んでいることになるのだ。要は、法律を説明しているだけなのに。そうすると、中国の法律とは一体何なのか?まるで理解できない。なぜ法律を作ったのか?彼らは、法律は支配者の道具にすぎないというマルクス主義の理論を、文字通り実践しているのだ」

呉さんが法廷から放り出されたビデオでは、気功修煉法の法輪功学習者を弁護していました。当局は70歳近い男性(67)を「国家政権の転覆を扇動した」として起訴したのでした。

上海の人権派弁護士/ 呉紹平
「普通の人々は銃も、何の資源も持たないし、何の権限もない。どうやって彼らが政権を覆すのだ?」

呉さんの依頼人には、正義を求めて政府に陳情する人もいます。彼の建物が役人の命令で強制的に取り壊されてしまったのです。呉さんによると、依頼人は警察に殴打された後、ホテルに拘束され、十数人の男たちが彼を見張っていたといいます。

上海の人権派弁護士/ 呉紹平
「以前、ネットで見るまでは、こんなことが起こるなんて思い寄らなかった。しかし私自身がこれらの訴訟を担当し、これは本当に起こっていることだと気づかされた。中国のいわゆる『安定維持』制度は恐ろしいものだ。税金や社会資源を無駄にするだけではなく、社会問題を解決することもできない。却って問題を生み出しているのだ」

呉紹平さんはまた、他の悪い兆候にも気づいたといいます。多くの不正が解決されず、市民は政府に異議を申し立てることもできないため、中には極端な方法で怒りを爆発させる人もいるというのです。

上海の人権派弁護士/ 呉紹平
「例えば、自殺だ。近年の自殺率は非常に高く、一家心中する人もいる。また別の方法は、社会に復讐することだ。バスで川に突っ込む、ナイフで無差別殺人を犯すなどだ」

呉さんは、こうしたネガティブなニュースが中国国内で話題になることは難しくなっていると指摘します。当局がメディアとSNSの統制を強化しているからです。

上海の人権派弁護士/ 呉紹平
「こうした社会的葛藤は頂点に達しており、またいつ引き起こされるのかもわからない。社会はまるで圧力鍋のようなものだ。圧力が上がり続け、いつ爆発するかわからない状態だ」

また呉さんは、西側諸国の人々は、中国の魅力的なインフラや高層ビルに注目し、その外見から中国を肯定的に判断する傾向があるといいます。しかし、それは真実を全て語っているわけではないと指摘します。

上海の人権派弁護士/ 呉紹平
「これは人間の本質に関わることかもしれない。人は美しいものに魅了されやすいが、この美しさには毒があるのではないか?その背後に何か汚くて卑劣なものがあるのではないか?この一見して美しい景色は、中国の庶民の莫大な犠牲の上にある。その背後には多くの人々の血と涙があるのだ」

昨年、中国の李克強首相は、人口の40%以上の人の収入が、月140ドル(約15,000円)以下であると発言しました。

そういう人にとって、車を買い、税金で作られた美しい高速道路を走る余裕などありません。まして豪華な高層ビルの中で買い物をすることもないのです。

上海の人権派弁護士/ 呉紹平
「多くの外国人が中国で経験する生活は、普通の中国人が経験する生活とは完全に別物だ」

呉さんは、中国での弁護士の仕事は、非常に儲かるし、快適だと語りました。しかし、人権訴訟を引き受けると全く違う結果になります。

上海の人権派弁護士/ 呉紹平
「これは損な投資を選んだようなものだ。お金を稼いで、いい暮らしをする、という選択も出来たかもしれない。一言で言うと、人それぞれの野心があるということだ。私にとって、お金が一番大事ではない。私は、たとえ弁護士になれなくても、中国が自由、民主的、正義、そして愛のある社会になってくれれば幸せだ。人間は精神的な存在だ。もし幸福が、持てる財産の量でしか測れないのなら、ジャック・マー(馬雲)に聞きたい。彼は幸せなのか?ジャック・マーは中国で最も裕福な人の一人だが、間違いなく不幸だと思っている」

呉さんは、中国社会の現状は持続可能ではないと言います。また、多くの中国人は変化への準備が出来ていると考えています。

上海の人権派弁護士/ 呉紹平
「一度(政府当局の)統制モデルが失敗したり、その一部の力を失ったり、もしくは人々が恐れなくなった時、本当の悟りをすんなり受け入れるようになるだろう。私はその日が来ると信じている」

 
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