米下院はこのほど、「中国による国連再編戦略の実像」と題する調査報告書を公表しました。報告書は、中国共産党(中共)当局が国連における影響力を巧みに行使し、米国の利益を損ないつつ、自らの国際的影響力を着実に拡大している実態を浮き彫りにしています。
3月20日に公表された報告書によると、中共は自らの戦略的目標を実現するために国連を巧みに操作しており、これは国連そのものの機能を損なうだけでなく、米国の価値観や利益にも深刻な影響を及ぼしていると指摘しています。
報告書は、中共が国連への拠出金を増やすことで国連側の譲歩を引き出し、組織の方針を自国に有利な方向へ導いていると分析しました。
中共が負担する国連予算の割合は、2006年の2%から2026年には20%へと拡大し、米国の22%に迫る規模に達する見通しです。一方で、中共は拠出金の支払いを意図的に遅らせるなどの手法を用い、2023年にはスーダンなどに対する人権調査の進展を妨げた事例もあります。
さらに報告書は、中共が拠出した1ドルに対し、国際農業開発基金から3.51ドルに相当する優遇融資を受けている実態を指摘しています。加えて、中共は経済的・戦略的利益が見込まれる国連平和維持活動(PKO)にも自国部隊を積極的に派遣しており、国連の枠組みを通じて影響力の拡大を図っていると分析しています。
2021年の時点で、中共は国連の15の専門機関のうち4機関で自国出身者をトップに据えることに成功しました。国連に所属する中国籍の職員数も増加を続け、2023年には1664人に達しています。
かつて北京で弁護士として活動していた頼建平氏は、中共が自身の統治に対する正当性の欠如を自覚しているため、国内外のあらゆる分野で浸透と統制を進め、自らを美化し、政策を正当化する一方で、反対者を中傷しているとの見方を示しました。
元北京の弁護士 頼建平氏
「一つは、公然と多額の資金援助で機関の支持を取り込む方法です。もう一つは、水面下で個人に対して贈賄や浸透工作を仕掛け、影響力を行使する方法です」
さらに頼氏は、中共が一部の国々と結託して国連の機関を支配しているとも指摘しています。国連人権理事会にはイランやベネズエラ、キューバなど、人権状況が深刻な国々も加盟しており、これにより同理事会は中共の人権弾圧を隠す装置となり、見せかけの平穏を演出する共犯者の役割を果たしていると述べています。
頼建平氏
「中共はこの分野で老獪さを極めています。資金力、人的ネットワーク、経験のいずれにも長け、歴史的にも浸透工作やスパイ活動を得意としてきました。そのため、国連システム内でも強い影響力を行使しています」
報告書はまた、中共が人事配置を通じて国連の意思決定や運営体制に影響を及ぼし、自国の国家戦略を支えていると分析しています。
具体例として、国連食糧農業機関(FAO)の屈冬玉事務局長、国連経済社会局の呉紅波元副事務総長、国際民間航空機関(ICAO)の柳芳元事務局長などを挙げ、中共のイデオロギーが国連内部に持ち込まれ、公平性が損なわれていると指摘しました。また、中共の統制下にある「非政府組織(NGO)」を活用し、統一戦線工作を展開しているとも述べています。
台湾国防安全研究院の沈明室研究員は、トランプ政権がWHOなどの国連機関からの脱退を進めた背景について、「米国が多額の資金を拠出しても、その効果が得られなかったためだ」と説明しました。その背景には、国連が中共やロシアの影響を受け、グローバルサウスを主導するかたちで地域の安全保障に影響を及ぼしている現状があるとしています。結果として、独裁政権による人権弾圧への制裁が国連内部で成立しにくくなっているのです。
台湾国防安全研究院 沈明室研究員
「今回の報告書は、これまで表面化していた問題を体系的に整理し、公表したものです。これにより、トランプ政権が国連機関からの離脱を正当化する理由を、米政府や国民に理解させる狙いがあります。つまり、国連がすでに浸透され、米国の影響力が大きく制限されていることを示しています」
この議会報告書は米政府に対し、国連に憲章の基本原則への回帰を促すこと、組織運営の透明性と責任を追及すること、中国の「開発途上国」扱いの見直しなど、複数の政策提言を行っています。
沈明室氏
「ロシアとウクライナの戦争をはじめとする多くの紛争からも分かるように、国連安保理は十分に機能していません。その最大の要因は、常任理事国が持つ拒否権により、国連が多くの議題を扱う際に5か国の意向に左右されていることです」
その一方で、沈氏は、常任理事国の拒否権が国連の機能不全を招く中、米国を中心とする新たな国際枠組みが秩序の回復に向けて一定の役割を果たしつつあるとの見方も示しています。




