「ポジティブな報道を」中共当局が新型コロナウイルス関連の報道内容を指示

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、中共当局はメディアに対し、ポジティブな報道を行って世論の雰囲気を誘導するよう求める通達を出しました。

中国共産党中央政法委員会は2月18日、各地に対し「典型的な宣伝を増やし」「美しく、涙を誘う、人間的な思いやりを記した『ポジティブなニュース』の報道を増やす」よう求める通達を発しました。

新型コロナウイルス肺炎が蔓延する中、この通知に対し多くのネットユーザーが疑問を呈し、国民の本当の心情をさらすことがより難しくなるのではないかと憂慮しています。

翌2月19日、中国のポータルサイト大手テンセントのプラットフォーム「大家(ダージャー)」が閉鎖されました。このプラットフォームは以前から中国の自由主義・知識人が集まるコラムサイトとして知られており、1月27日にはコラム『武漢肺炎発生から50日。全中国人が、メディアが死んだ代償を支払っている』が掲載されていました。

このコラムは、感染拡大に対する中国メディアの報道について、「彼らが行ったことは基本的には資格を備えたニュースメディアがなすべきことではない」、「当局が1月20日に感染拡大を発表する前、これらのメディアが力を発揮したのは主に事実を隠匿し人々を慰めるために、ウイルスを『危険性は限定的』『制御可能、治療可能、ヒト―ヒト感染は起こらない』などと報じたことだった」と痛切に批判していました。この間、真偽不明ないくつかの感染発生情報を除き、武漢の現地メディアも穏やかな論調で報道を行っていました。

1月20日を過ぎるとメディアは大規模な感染例や武漢市の都市封鎖について報じ始めましたが、報道する内容は主にウイルスと戦う人々や戦う決意に対する賛美へと変化しました。それまでの「慰め」を目的とした記事が「励まし」や「感動」を誘うものへと姿を変えたのです。

雑誌『縦覧中国』の陳奎徳編集長
「最初の段階、つまり1月20日以前は、多くの命を危険にさらすことになるかどうかの瀬戸際の時期だった。当局はヒト‐ヒト感染は起こりえず、ウイルスは安全でコントロール可能だと述べていたが、こうした報道は真っ赤な嘘だった。このような嘘は一種の殺人行為だ」

元市民ジャーナリストでネットワークエンジニアの周曙光氏
「1月20日以降、彼らは感染状況が放射能のように政治的圧力の影響を受けないことを知った。そのため感染拡大を防げない状況が続く中、彼らは『励まし』や『頑張れ』などといった表現に切り替えて、ポジティブな報道をし始めた。民衆が共産党を批判したり疑ったりしないようにするためだ。だから彼らはこうしたテーマを設定して、人々が彼らの宣伝する通りに物事を考えるようにしている」

「大家」を立ち上げた賈葭(かか)編集長はSNSに「良心を備えた文章によって、私たちに降りかかった大きな問題を記録し、説明し、分析することができる。テンセントの『大家』は過去に、こうした大きな問題のために生まれた。そして当然ながら、こうした大きな問題のために死んだ」と投稿しています。

賈葭氏はラジオ・フリー・アジアの取材に対し、今回の深刻な感染拡大は、「言論が一つの国家や国民の健康を守ることに深く関係していることを説明するものだ」と語っています。

中国共産党中央政法委員会は「感動的なストーリーや生き生きとした事例を深く掘り下げる」「伝染病に打ち勝つための人民戦争、総力戦、狙撃戦により良好な世論と雰囲気を作り上げる」よう求めると通知しています。

雑誌『縦覧中国』の陳奎徳編集長
「病気の感染は勝ち負けの問題ではない。中共がこれを戦争とみなしているだけだ。まるで中共がこの戦争に勝ったかのようだが、そんなことはない。すべてが逆だ。中国人の命を犠牲にし、あろうことか一つの戦績、一つの成績、一つの勝利にしてしまっている」

実際に、中共による世論の安定化はこの政法委員会の通達前に始まっていました。ラジオ・フリー・アジアが報じたところによると、感染の拡大初期に財新、財経、三聯生活週刊、氷点週刊、新京報といった中国の商業メディア数社とセルフメディアは、感染地のルポタージュや調査レポートを数多く報じていました。しかし2月3日に習近平主席が「世論誘導作業の強化」を通達すると、こうした報道は急速に縮小してしまいました。

同時に新浪ウェイボーで最もホットな話題だったハッシュタグ付き投稿「#肺炎患者が救援求む」も2月4日には削除され、3000件あまりあったスレッドも200あまりに減らされてしまいました。

ラジオ・フリー・アジアは武漢で取材を行ったある記者の話として、現在、湖北省や武漢のニュースの報道は完全に不可能になっており「いわゆるネガティブな報道」は許されないと報じています。

雑誌『縦覧中国』の陳奎徳編集長
「武漢の複数の友人は『今回の事件を通じて、もし我々が生き延びることができて、声を挙げられるようになったら、我々には何かを語る自由、言論の自由、情報を得る自由がないといういかなる抗議に対しても、私は最初に立ち上がって街頭に出る』と語っている」

雑誌『縦覧中国』の陳奎徳(ちん・けいとく)編集長は、今回の新型ウイルス肺炎が中国人に与えた苦難によって、多くの民衆が目覚めることになったと考えています。

 
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