VPN 台湾・・ そして中国人学生の目覚め

ほんの少しの自由の味が、中国の若者に自分の育った共産主義への疑問を抱かせました。しかし、外の世界をもっと知りたいという願いは危険をもたらし、人生を永遠に変えてしまいます。報道をご覧下さい。

VPN(バーチャル プライベート ネットワーク)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。オンライン上で自分のIPアドレスを偽装することで、インターネット上で別の場所にいるように見せかけることができます。

米国では、特定の国でしか視聴できないNetflixの番組を見るために、多くの人がVPNを利用しています。しかし、共産主義中国でのVPNの利用は、Netflixの気分を害する程度では済まされません。中共の警察に逮捕され、人生を棒に振ることもあるのです。

それはまさに、当時24歳の大学を卒業したばかりの陳さんに起こったことです。彼は中国を脱出し、昨年末に韓国に渡りました。

彼の身元とまだ中国に住んでいる家族や友人の安全を守るために、私たちは彼を「陳さん」と呼ぶことにしました。

中国の大学卒業生の陳さん
「中国は比較的オープンになった。今のような時代に生きていて、大したことではないと思い、気にしていなかった。しかし私自身の身に起きた。そして、(VPNを使うことが)どんなに危険なのかを思い知った」

陳さんは、中共政権のインターネット検閲システム「グレート・ファイアウォール」を回避するためにVPNを利用したことが問題となりました。

このファイアウォールは、中共政権に批判的なコンテンツを含むウェブサイトへの、中国内からのアクセスを遮断するもので、YouTube、Facebook、Twitterなども含まれます。

しかし、陳さんは中国共産党の神経を逆撫でするようなものは見ていませんでした。陳さんがVPNを利用したのは、主にライフスタイル系コンテンツを作るユーチューバーをフォローするためでした。

中国人留学生 陳さん
「ただのライフスタイルに関するものだったが、それすらコントロールしようとする。政治的なものなど見ていない。真面目な話、私は当時『小粉紅』だったし、政治は気にかけたこともなかった」

「小粉紅(ピンクちゃん)」とは中国共産党を熱烈に支持する中国の若いネットユーザーを指します。彼らは、中国や中共政権を批判する人に対しては、国内外を問わず激しく非難します。

しかし、陳さんは2016年に交換留学生として台湾を訪れてから、次第に見方が変わり始めました。

中国共産党は民主主義である台湾を支配したことはありませんが、ずっと自国の領土であると主張してきました。

台湾で、陳さんは国への対処の違いを目の当たりにしました。

中国人留学生 陳さん
「ある時、台湾の学生グループが宜蘭県羅東鎮の役所に抗議に行くと言った。それで私は仲間と一緒に付いて行き、役所の前にキャンプを張った。仲間と私はそこで、お互いに助け合い、励まし合った。ものすごく感動した。社会問題に関わるというのはどういうことなのか気付かされた」

また陳さんは、異なる意見に対する台湾の人々の反応にも驚かされたといいます。

中国人留学生 陳さん
「私が台湾にいた時、中国の良いところを話したり、彼らが嫌がることをたくさん言った。でも、彼らは私を攻撃しなかった。異なる意見を尊重してくれたのだ」

中国に帰国してからは、陳さんは時々、ネットで社会問題に対してコメントするようになりました。

陳さんは、合理的なやり方で自分の意見を言っているだけなので、何も外れたことはしてないと思っていたといいます。しかし、中共警察はそう感じてはいませんでした。

中国人留学生 陳さん
「私の中国のソーシャルメディア『知乎(ちこ)』が閉鎖され、続いて微信(ウィーチャット)アカウントも閉鎖された」

そして2020年6月10日の早朝、私服警官が陳さんと友人の住むアパートに侵入し、捜索を始めました。あっという間に全てが大きく変わりました。

中国人留学生 陳さん
「彼らにどの部署に所属しているのかと尋ねたが、彼らは答えなかった。家中の捜索を続け、電子機器や携帯電話などを探していた。私が外国勢力と繋がりがあるか、組織に加わっているのか等聞かれたが、私には全く身に覚えがない。そして、外国人の同級生や友人で連絡を取り合っている人がいないかと聞かれ、見せろと言われた。携帯電話にVPNアプリを入れていることや、削除していないチャット履歴を見られた。彼らは全て見ていたのだ」

警察は陳さんを連行し、公安局の取調室で二日間にわたって尋問しました。VPNアプリを他の人とシェアしていたことを知り、それが問題となりました。警察は「コンピュータプログラムへの侵入ツールを提供」したという罪で陳さんを告発したのです。

陳さんは刑事告発に直面し、最長7年の懲役刑が科せられる可能性がありました。

中共当局は、中国ではVPNの利用は許可されているが、当局による承認が必要だと主張しています。2017年、当局は無許可のVPNを取り締まり、複数の人を逮捕しました。

そして2018年、中共政権は無許可のVPNを正式に犯罪化しました。陳さんにとって、判決を待つことは容易ではありませんでした。

中国人留学生 陳さん
「私は本当に不安で、毎日眠れなかった。刑事告訴され有罪判決を受ければ、自分の人生に汚点が付く。これはあまり良くない事だと思う。なぜなら、私の次の世代、私の息子や娘の将来に影響を与えるからだ。子供が試験を受けたり、政府の職を希望する場合にも影響を受けることになる。だから、そうしたことを考え、私はあの場所から逃げなければならないと感じた」

取調室での尋問は、一晩中続いたため、陳さんは倦怠感、暑さ、緊張で体温は一般の人よりも高く、地元の拘置所は陳さんの受け入れを拒否しました。海口市公安局は陳さんを「保釈裁判での釈放」として処理し、1万元(約17万円)を支払うように求めました。

陳さんはこうして亡命を余儀なくされましたが、人々を逮捕することで社会的統制を図ろうとする中共政権のやり方は長続きするものではないと語ります。

中国人留学生 陳さん
「最近はファイアウォールを迂回する人が山ほどいる。彼らを逮捕しようと思っても、全員を逮捕することは無理だ」

陳さんはその後、Youtubeチャンネルを開設し、社会問題に対する自分の見解を発信しています。 陳さんの最新の動画タイトルは「中国を愛することは、共産党を愛することと同じではない」です。

〈字幕版〉

 
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