アングル:不祥事でも揺るがぬ「五輪マネー」、アジアがけん引

[平昌(韓国) 19日 ロイター] – 長期化するロシアのドーピング問題に、汚職疑惑。そして五輪招致に及び腰になる世界の大都市──。

もし国際オリンピック委員会(IOC)が上場企業だったなら、相次ぐ手痛いニュースに飲みこまれて、上場維持が困難になっていたかもしれない。

だが、IOCは財務的にかつてないほど良好な状態にある。これは、アジアでのスポンサーや政府、主要都市やファンの支援拡大によるところが大きい。

IOCの主要な収入源である放映権料収入は記録を更新しており、2016年のリオデジャネイロ五輪では、2012年のロンドン大会から12%増の28億7000万ドル(約3000億円)に達した。2020年の東京大会では、再び記録を更新することが確実だ。

2013─16年のIOC収入の5分の1を占めていた、最高位の企業スポンサーからのスポンサー料は、2014年ソチ冬季五輪と2016年のリオ大会の間に初めて10億ドルを突破した。ソチとリオの両大会は、五輪の中でも最も困難な大会だった。

総費用約500億ドルのソチ大会は、「使いすぎ五輪」の象徴であるだけでなく、今やロシアの組織的ドーピング疑惑の同義語となってしまった。リオ大会は、チケット転売での利ザヤ稼ぎや、五輪幹部を巡る汚職捜査で打撃を受けた。

だが、五輪ブランドを頼みにしている大会幹部たちは、平昌冬季大会での取材に対し、スキャンダルで悩んではいないと話した。選手は問題行動を起こせばたちどころにスポンサーを失う可能性があるが、五輪ブランドは「回復が早い」と、話す幹部もいた。

スポンサー企業側も、消費者は単にそれほど気にしていないと話す。

「(五輪)ブランドにマイナスの傷がついたという証拠はまだ目にしていない」と、最高位のスポンサー企業の1つ、化学大手ダウ・デュポン<DWDP.N>の五輪スポーツソリューション担当のルイス・ベガ副社長は言う。

スポンサー側のこうした発言や潤うIOCの金庫は、相次ぐマイナスの評判や西側都市における五輪招致への関心低下で、五輪ブランドの価値が保てなくなると考える一部専門家の見方と好対照をなしている。

マサチューセッツ州にあるスミス大学の経済学者で、ボストンで五輪招致反対運動のアドバイザーも務めたアンドリュー・ジンバリスト氏は、スポンサー企業はこうしたことを理解しているが、それを認めていないだけだと話す。

「現在の五輪スポンサー企業が、五輪ブランドは揺るがないと言っていること自体に大きな意味はない」と、ジンバリスト氏は言う。「五輪との関係構築に何千万ドルも注ぎ込んだ企業が、IOCのイメージを傷つけるようなことをするだろうか。投資の価値を下げるだけだ」

持続可能な大会実現のための改革案「アジェンダ2020」が策定された後ですら、巨大スペクタクルのために巨額を投入する開催都市側の意思が、IOCのビジネスモデルを支え続けている。

とはいえ、リスクを取る意欲がある都市は減っている。アジェンダ2020の発効後に2024年夏季五輪の開催都市に決まったパリは、約68億ユーロ(約9000億円)の予算を組んでいる。パリが開催都市に決まったのは、ほかに立候補していたボストンやローマ、ハンブルグやブダペストが撤退した後だった。

アジアでは対照的に、五輪招致に手を挙げる都市はまだ多く、IOCやスポンサーを安堵(あんど)させている。

2022年の北京冬季五輪まで、五輪は3大会連続でアジアで開催されることになる。また2026年の冬季五輪には、札幌が招致を目指している。

「アジアは世界に向けて一層開かれようとしており、社会の一部としてのスポーツがその傾向を追っているというのも理屈にかなったことだ」と、IOCのバッハ会長はロイターに語った。

<天井知らず>

IOCにとって最も重要な放映権は、米国ではNBCテレビが、欧州ではディスカバリー・コミュニケーションズ<DISCA.O>が握っているが、長年一貫して上昇し続けていた米国の視聴者数はリオ大会で初めて下落したことが、NBCスポーツのデータで明らかになっている。

だが、米ケーブルテレビ大手コムキャスト<CMCSA.O>傘下のNBCは、視聴者数の減少は、テレビからオンライン視聴へのシフトを反映したものだとしている。オンライン視聴は、広告収入源としても拡大している。NBCは、リオ大会では、ロンドン大会の倍の2億5000万ドルの収益を上げたとしている。

日本では、日本放送協会(NHK)の開会式中継の視聴率は、2004年のアテネ夏季五輪から2016年のリオ大会にかけ上昇した。関東地方では、アテネの17%から、リオでは約25%に上昇している。

2020年の東京五輪に向けた国内のスポンサー契約は、すでにロンドンやリオの3倍近い規模の計30億ドル程度に膨らんでいる。

「2020年東京大会に向けたスポンサー需要は特に前例がないほど高く、とてつもない規模になっている」と、五輪スポンサーと取引があるニールセン・スポーツ&エンターテインメントでコンサルティングのグローバル責任者を務めるマイケル・リンチ氏は言う。

中国は、アジア最大の五輪視聴者をもつ市場だが、中国の放映権を握る中国中央テレビ(CCTV)は、データ提供の求めに応じなかった。

IOCの最高位スポンサーは、アジア企業が徐々に米企業に取って代わりつつあり、現在では、中国インターネット通販最大手アリババ<BABA.N>や、日本のタイヤ大手ブリヂストン<5108.T>、トヨタ自動車<7203.T>などが名を連ねている。

IOCの最高位スポンサー13社のうち、古参の韓国サムスン電子<005930.KS>と日本のパナソニック<6752.T>を含む5社がアジア企業だ。最高位スポンサーの仕組みは、IOCが財務破綻しかけた数年後の1985年に、両社と共に導入された。

「アジアの関心はわれわれにとって非常に重要だ。韓国と中国は巨大な新興市場だし、日本はわれわれの本国だ。だからアジアシフトはブリヂストンにとってとても好ましい」と、ブリヂストンで米州のスポーツ・イベントマーケティングを担当するフィル・パクシ副社長は言う。

<もろ刃の剣>

しかし、五輪とアジアとの関係の深まりは、特に米国市場でIOCの立場を複雑なものにしている。

米国では2002年のソルトレークシティー冬季大会以来、五輪が開催されていない。2014─32年の米国での放映権料のために親会社が120億ドル以上出したNBCは、自国開催を次のロサンゼルス夏季大会が開催される2028年まで待たされることになる。

米国オリンピック委員会は、3連続アジアで開催される五輪の第一弾である平昌大会を前に、国内スポンサー数社を失っている。

現段階では、IOCは財務的に良好な状態にあり、その状態を維持するためにアジアへの依存を深めつつある。IOCは、収入の9割を世界のスポーツ振興に充てているとしている。

「(IOCを)取り巻く政治状況にかかわらず、五輪はまだわれわれにとって非常に価値のあるものだ」と、最高位スポンサーの1つビザ<V.N>の韓国マネジャー、イアン・ジェイミソン氏は話した。

(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)

 
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